日商簿記検定2級「工業簿記」攻略とらの巻

本ブログでは、日商簿記検定2級「工業簿記」について分かりやすく解説します。

日商簿記検定2級「工業簿記」攻略とらの巻 ⑦「中身」の話、労務費の分類

⑦「中身」の話、労務費の分類

労務費とは、働く人にかかる費用で、以下のようなものがあります。

(1)賃金

(2)給料

(3)従業員賞与手当

(4)退職給付費用

(5)法定福利費

 

 以上の費用のうち、製造に直接かかわる直接工の賃金だけは、「直接労務費」ですが、それ以外はすべて「間接労務費」となります。 

 

 材料費の対象である材料は、形のある物なのでイメージしやすいですが、労務費の対象は人の労働力という無形のものなのでイメージしにくいと思います。材料は有形で、材料倉庫に一旦収納されます。そこから、製造過程に必要な分だけ投入されます。一方、従業員から提供される労働力は、直接、製造過程に投入され、無形であるため、金額で計算します。

 

 毎月1日から月末までの原価計算期間と給料の支払い期間がズレる場合、原価計算期間の労務費は支払われた賃金ではなく、下図のように、賃金支給額から「支給額中前月分」をマイナスし、「当月未払額」をプラスした「当月消費額」を用いて計算します。

 

日商簿記検定2級「工業簿記」攻略とらの巻 ⑥「中身」の話、材料費の計算

⑥「中身」の話、材料費の計算

 材料費の計算は、以下のように行われます。

材料費 = 消費単価 × 消費数量

 

 消費単価の決定方法については、商業簿記における棚卸資産仕入単価の場合とほぼ同じで、先入先出法と平均法があります。

 上図のように、消費単価が徐々に高騰している場合、製造過程投入分に比較的安い初期の消費単価を割り当てる場合と、平均単価を割り当てる場合とでは製造原価の値が違ってきます。

 

 消費単価の算定方法の選択によって、「③製品期末棚卸高」と「④製品売上原価」の間の仕切が異なってきます。高い消費単価の材料が製造原価に入っているとすると、「③製品期末棚卸高」は小さく、「④製品売上原価」は大きくなります。その結果、「⑤当期売上高」と「④製品売上原価」との差額である「⑥売上総利益」は小さくなります。

 逆に、安い消費単価の材料が製造原価に入っているとすると、「③製品期末棚卸高」は大きく、「④製品売上原価」は小さくなります。その結果、「⑤当期売上高」と「④製品売上原価」との差額である「⑥売上総利益」は大きくなります。

 

日商簿記検定2級「工業簿記」攻略とらの巻 ⑤「中身」と「器」の接点、直接材料費・間接材料費と「仕掛品」・「製造間接費」

⑤「中身」と「器」の接点、直接材料費・間接材料費と「仕掛品」・「製造間接費」

 今回は、直接材料費と間接材料費について、その勘定記入、つまり「器」との接点について解説します。まずは、「中身」の話です。材料費をはじめ、労務費、経費もそれぞれ、直接費と間接費に分類されます。材料費の場合は、直接材料費と間接材料費になります。

 次は、「器」の話です。直接材料費は、具体的には主要材料費と買入部品費です。つまり、「直接」、製品に入っていく材料です。一方、関節材料費は、補助材料費、工場消耗品費、消耗工具器具備品費です。こちらは、製品に直接入っていくわけではなく、その製造に必要な「モノ」です。

 

 次に「器」の話です。材料が調達されると「材料」勘定に借方記入されます。仮に現金払いで100,000円で購入されたとすると、仕訳は以下の通りです。

(借方)材 料 100,000円  (貸方)現 金 100,000円

 

 これは、調達先からの購入なので、外部取引です。したがって、商業簿記での「商品」の仕入れの際と同じで、「材料」という資産を受け入れ、「現金」という資産が減少したことを示す仕訳です。

 仮に、主要材料と買入部品、合計50,000円が製造過程に投入されると、以下のよう「仕掛品」勘定に借方記入され、「材料」勘定に貸方記入されます。これは、工業簿記固有の内部取引です。

(借方)仕掛品 50,000円  (貸方)材 料 50,000円

 

 そして、補助材料、工場消耗品、消耗工具器具備品、合計30,000円が製造過程に投入される場合には、下のよう「製造間接費」勘定に借方記入され、「材料」勘定に貸方記入されます。これも、工業簿記固有の内部取引です。

(借方)製造間接費 30,000円  (貸方)材 料 50,000円


 最終的には「製造間接費」勘定の借方の数字は、「仕掛品」勘定に借方記入されます(「製造間接費」勘定には貸方記入されます)。これについては、少し先の回で説明します。さらに、完成して製造工程から製品倉庫に移される製品は、「製品」勘定に借方記入されます(「仕掛品」勘定には貸方記入されます)。これについても、少し先の回で説明します。

日商簿記検定2級「工業簿記」攻略とらの巻 ④「中身」の話、総合原価計算と個別原価計算

 原価計算には、総合原価計算と個別原価計算があります。今、多くの人が身につけている衣服は、大半が既製服だと思います。既製服は、個々の人のサイズを測ることなく、いくつかの標準的サイズ、つまりS、M、L等を見込みで生産しています。その結果、大量生産が可能なわけです。

 例えば、あるサイズを1万着作ったとしたら、それに掛かった原価を1万で割れば、1着あたりの原価が求められます。これが総合原価計算です。

 他方、オーダーメイドの服は、個々の人のサイズ、趣味に合わせて作られます。したがって、原価はそれぞれの服ごとに異なります。それぞれ個別に原価を計算するのが、個別原価計算です。しかし、衣服については、大量生産がほとんどで、オーダーメイドはごくわずかですが、オーダーメイドが一般な業種があります。代表例は、建築業と造船業です。これらの業種では個別原価計算がメインになります。

日商簿記検定2級「工業簿記」攻略とらの巻 ③「器」の話、工業簿記固有の勘定「仕掛品」と「製品」

③「器」の話、工業簿記固有の勘定「仕掛品」と「製品」

 「仕掛品」と「製品」は、勘定の名前です。「仕掛品」勘定は、工場に投入された「モノ」を受け入れ、借方記入されます。そして完成した「モノ」は、「製品」勘定に移動、つまり貸方記入されます。まず、受け入れ側について原材料を例にして説明します。

 外部から調達された原材料が、材料倉庫に運び込まれたとします。それは、「材料」勘定に借方記入されます。そして、加工のために工場に運び込まれた「モノ」については、「材料」勘定では貸方記入される一方、「仕掛品」勘定に借方記入されます。

 そして、製造過程に投入されたモノが加工され、完成して製品となったものは、「仕掛品」勘定では貸方記入される一方、「製品」勘定に借方記入されます。

日商簿記検定2級「工業簿記」攻略とらの巻 ②まずは「中身」の話、原価要素

②まずは「中身」の話、原価要素

 まずは、原価計算の第一歩、原価要素について説明します。原価計算では、原価をまず次の3つに分類します。ここでは、シャツ工場を前提に説明します。

材料費 シャツの原料の布など

労務費 働く人たちの賃金・給料

経費 その他 裁断、縫製の機械の減価償却

 この3つの要素が「加工」によって製品となります。モノとカネの対流として表したものが下図です。

 ここで注意しなければならないのは、「材料費」は、原材料という形のある物であることが多いのに対して、「労務費」は人の労働力、「経費」は裁断、縫製の機械の減価償却費というように形のあるものではありません。そこで、「モノ」としています。

 製品については、形のある物である場合もありますし、無形のサービスである場合もあるので、「モノ」としています。

 材料費、労務費、経費の3要素を出発点として、製品の原価を計算するのが原価計算です。3要素の「調達」については、外部取引ですが、3要素により「加工」して製品に至るまでのプロセスは内部取引です。原価計算は、本来、簿記上で計算する必要はありません。しかし、それを簿記上で行うのが工業簿記です。

日商簿記検定2級「工業簿記」攻略とらの巻 ①工業簿記とは何か

①工業簿記とは何か

 工業簿記とは、工業、すなわち製造業における原価計算を簿記の上で行うものです。つまり、「中身」が原価計算で、「器」が簿記です。そこで、「中身」である原価計算をまず説明します。

 商業の場合は、基本的に仕入値を基に容易に売上原価を算出できます。例えば、1,000円で仕入れたシャツであれば、1,000円以上で売ればもうけが出ることが分かりますし、売値と仕入値の差額が売上総利益、つまり粗利益になります。

 しかし、製造業の場合、原料の布はいくら、裁断、縫製の機械の減価償却費がいくら、働く人たちの賃金・給料がいくらということは分かっても、製品であるシャツ1枚にいくらかかっているかは、計算しないと分かりません。例えば、売値をいくらにすればよいかも、それでもうけが出るかどうかも分からないということになります。

 したがって、原価計算というのは、製造業における原価、つまり製造原価を計算することを意味します。

 次に、「器」である簿記ですが、日商簿記2級を受けようとする人は、3級を合格している人が多いと思います。なので、商業簿記の説明は必要とないと思います。しかし、商業簿記では、外部との取引が記帳の対象のほとんどですが、工業簿記では、内部取引の記帳がほとんどです。そのため、商業簿記では出てこない記帳対象がたくさん出てきます。そこで、工業簿記は、「器」として簿記を使うところは商業簿記と同じですが、「中身」は大きく異なることを意識しましょう。