日商簿記検定2級「工業簿記」攻略とらの巻

本ブログでは、日商簿記検定2級「工業簿記」について分かりやすく解説します。

日商簿記検定2級「工業簿記」攻略とらの巻  ⑨「中身」の話、個別原価計算

第9回「中身」の話、個別原価計算

①個別原価計算とは何か

 今日の製造企業は、多くが見込みで大量生産する企業です。その場合は、総合原価計算が行われます。

 個別原価計算とは、受注生産を行う企業、つまり顧客の注文に応じて生産する企業で実施される原価計算です。しかし、今日でも一部の業種では、受注生産がメインです。代表例は、建築業と造船業です。

 

②個別原価計算と製造指図書

 個別原価計算を行う企業では、顧客からの注文を製造指図書として製造現場に伝え、現場では、それに従って製造が行われます。そして、個別原価計算は、原価計算表を使って行われます。

 造船業の例で見ていきましょう。今、3つの製品、No.1(タンカー)、No.2(客船)そしてNo.3(コンテナ船)を並行して製造しているとしましょう。上図は、製造指図書のうち、費用だけを抜き出したものです。実際の製造指図書には、顧客からの注文を基に様々な指示が記されています。

 

③「当月投入高」のみの原価計算

 上図は、費用のみを製造指図書から写した原価計算表です。原価計算は、基本的に月別に行われます。仮に月末にNo.1(タンカー)とNo.2(客船)が完成し、注文主に引き渡されたとしましょう。

 

④「前月繰越」と「備考」を追加した原価計算


 先ほどの原価計算表には、「前月繰越」と「次月繰越」が反映されていませんでした。上図は、「前月繰越高」、「当月投入高」、「当月完成高」、「次月繰越高」の関係を示しています。「前月繰越」は、前月から作りかけの状態で引き継がれたものを示します。「当月投入高」は、今月中に投入された材料費、労務費、経費、製造間接費等です。そして、「次月繰越高」は、月末時点で未完成のまま次月に引き継がれるものを表します。

 上図では、先ほどの原価計算表に「前月繰越」と「備考」を追加しています。「前月繰越」に数字が入っているので、No.1(タンカー)とNo.2(客船)は、前月以前から製造されていて今月に引き継がれてきたことが分かります。No.3(コンテナ船)については、ゼロなので、今月に入ってから製造が開始されたことが分かります。

 先ほどの原価計算表にもあった、直接材料費、直接労務費、直接経費、製造間接費の数字は製造指図書から写された、「当期投入高」です。

 当月中に完成し、注文主にNo.1(タンカー)とNo.2(客船)は、この後、説明するように、「仕掛品」勘定から「製品」勘定に振り替えられます。一方、未完成のNo.3(コンテナ船)は、「仕掛品」勘定に残されます。ちなみに、「仕掛品」というのは、「作りかけのもの」という意味です。

 

原価計算表と「仕掛品」勘定、「製品」勘定 

 「仕掛品」勘定の借方の「前月繰越」は、作りかけの状態で前月から引き継いだNo.1(タンカー)とNo.2(客船)の数字です。その下の、直接材料費以下の項目は、「当月投入高」です。

 貸方の「製品」は、完成して「製品」勘定に振り替えられたNo.1(タンカー)とNo.2(客船)の数字です。「製品」勘定に振り替えられたので、数字の前に「製品」と記されています。「次月繰越」となっているのは、未完成のNo.3(コンテナ船)の数字です。

 「製品」勘定の借方の「仕掛品」は、完成して「仕掛品」勘定から振り替えられてきたNo.1(タンカー)とNo.2(客船)の数字です。「仕掛品」勘定から振り替えられてきたので、「仕掛品」と記されています。

 「製品」勘定の貸方の「売上原価」については、No.1(タンカー)とNo.2(客船)が完成して、注文主に引き渡されているので、数字が「売上原価」勘定に振り替えられたため、「売上原価」と記されています。